
2013/11/13にInter BEE 2013会場内で行われたILM山口圭二氏による『パシフィック・リム』のメイキング講演(Inter BEE 2013)の内容を備忘録として簡単にまとめました。
※私個人のメモ代わりとなりますので、順番や内容の漏れなどについてはご容赦ください。
『パシフィック・リム』のVFXがどのようにして作られたかをILMのクリーチャー・ディベロッパーである山口圭二氏が解説するという約1時間の講演でした。
山口圭二さんへのインタビュー記事がありますので、そちらもご覧になってください。
映画『アベンジャーズ』制作に携わるILMの天才CGアーティスト山口圭二氏インタビュー
『ローン・レンジャー』『パシフィック・リム』のVFXブレイクダウン映像を流した後に解説が始まりました。
■『パシフィック・リム』を制作するにあたり、参考にしたもの
ウルトラマン
ゴジラ(初期の頃の)
エヴァンゲリオン
鉄人28号 → 特にイェーガーの首周りの参考に
■テスト映像(VFXの仕事を受注するためのもの)
6週間で制作
夜の街、イェーガー(ジプシーっぽい)と怪獣(ナイフヘッド)が戦うシーン
このテスト映像を作った結果、受注できた。
※『パシフィック・リム』特典映像の「大迫力の視覚効果が生まれるまで」の7分45秒あたりからの映像がこのテスト映像です。
■Arnold(レンダラー)の選択
ILMは今までPixarのRenderManを使ってきたが、今回予算を削減するために、Arnoldを選択した。
(Arnoldで水以外のレンダリングを行った)
■コンセプト・アート、イメージボード
映画を制作する前に何枚もイメージボードを用意した。

上記のもの以外に数枚、紹介
怪獣のコンセプト・アート
ILM社内のアート部門でもディテールがわかるコンセプト・アートを描いた。
ナイフヘッド

アックスヘッド(名前が決まる前は、サンフランシスコを襲う怪獣なので“サンフランシスコ”と呼んでいた)
ちなみに、ストライカー・エウレカと戦ったブレードヘッドは最初“シドニー”と呼ばれていた。

レザーバック

オオタチ

オニババ(正直、この名前を聞いて、やる気を無くした)

ライジュウ

スカナー

スラターン

怪獣のマケット(模型)
※ どの怪獣のマケットの写真を紹介していたかを忘れてしまいました。下の写真はオオタチのマケットです。ライジュウのマケット写真を紹介していたのは覚えていますが、ネットでは出てきませんでした。

海中決戦に登場するライジュウの最初に作ってもらったマケットは後ろ足で立っているようなポーズだったが、海中で泳ぐという設定だったので、泳ぐ姿勢に近い体勢のマケットを作り直してもらった。
マケットを参考にしながら、Pixologic社のZBrushでCGモデルの制作を行った。
※ 講演で紹介していた画像とは異なります。

■怪獣の外観の参考資料
ゾウ、ワニ、オオトカゲなどの写真や岩肌・乾燥して亀裂の入った地面などの自然物も参考にした。
ナイフヘッドはミツクリザメを参考にした。

■怪獣のリギング
本作において、山口さんは怪獣のみリギングを行った。イェーガーのリギングは行っていないとのこと。
怪獣の表皮とその下の血管などを表現するために2重構造になったモデルのウエイト調整は大変だった。ベイビーオオタチのへその緒も2重構造になっている。
皮膚の振動について悩んだ。そもそもあんな大きな怪獣は存在しないので、どんな揺れ方をするかわからない状況で作業した。
皮膚を揺らすために、大きく分けて2つの手法を取った。1つはボックス状のものを仕込んで行う方法。もう1つはスプリング・ベースでシミュレーションさせる方法。前者は厳密ではないが速いので、状況によって使用した。
■Arnoldでのレンダリング
モーションブラーが汚くて、導入当初はモーションブラーをオフにして、さらに数コマ飛ばしでレンダリングを行って、2D処理で補間してチェックムービーを作っていた。
最終的にモーションブラーはオフにしてレンダリングを行い、後処理ベースのモーションブラーを開発し利用した。
ArnoldはRenderManと違いマイクロポリゴンをサポートしていないので、クロースアップになったモデルを細かくサブディビジョンしなければならなかった。ポリゴンを細かく分割することになるので、重くなった。
■イェーガーについて
イェーガーのコンセプト・アート
ジプシー・デンジャー

→ジプシーは青色がベースで、Hue値が高くなるため、リアルに見せるのが難しかった。
ストライカーのようなシルバーだとリアルに見せやすい。
エウレカ・ストライカー

クリムゾン・タイフーン

コヨーテ・タンゴ

チェルノ・アルファ

イェーガーの参考資料
潜水艦や空母などを参考にした
→巨大なロボットを表現すための資料として
ジプシーの腕を回しているムービー。腕の可動範囲のチェックムービーと思われる。
チェルノ・アルファの左手の指を広げた状態と握った状態のCGモデルの画像を紹介。
山口氏曰く、「こんな風にロジカルにやるとつまらなくなる。エヴァのようなアニメーションだと手で描くからかっこよくなる。トランスフォーマーではロジカルではなくアニメーターが動かせたのでよかった」(言葉は忠実ではありませんが、このようなことを話していました)
クリムゾン・タイフーンの手先についた回転ノコギリのテスト・アニメーションの解説
→テクニカル・アニメーターのクリス・ミッチェル氏がセットアップした。
ジプシーのダメージを受けた様々なパーツのバリエーションの説明。シーンの状況に適したパーツを読み込んで使用した。
トランスフォーマーのオプティマス・プライムとジプシー・デンジャーの頂点数やオブジェクト数の対比図を解説。
ジプシー・デンジャー:790,000頂点、2,050オブジェクト
オプティマス・プライム:1,900,000頂点、10,000オブジェクト
(講演では違う画像でしたが、オプティマスとジプシーのシルエットを並べた画像が出ていました)

参考映像
映画で初めてArnoldを使うことになったため、シェーダーの開発を行った。開発には1年しかなかった。
■ヘッド・ポッドなど実写撮影の様子
■ミニチュアを使った撮影
香港の街で戦っているジプシー・デンジャーが誤ってビルにパンチしてしまうショットの解説



実はこのショットのミニチュア撮影は1回分しか予算がなかった。
本番撮影を行う前に、机が並んでいない空いている場所に紙コップを数個、間隔を離して並べて、テストを行った。
次に本番撮影をしたものの、ジプシーの拳に見立てたグリーンの物体が途中で引っかかてしまい、あえなく失敗。
もう一度撮影することになり、予算オーバー。
2度目はオフィスの奥まで到達できて成功したが、1回目の時に壊れた天井はそのままで撮影したので、1回目に撮影した天井を使い、2回目の映像と合成した。さらにCGで紙くずや埃を追加して完成させた。
そして、拳を引き抜くショットも1回目が失敗し、2度撮影した。
怪獣にくっついて寄生虫の実写用モデル

■VFXブレイクダウン映像の紹介
香港の街でジプシーがオオタチに襲われてビルにたたきつけられるシーン
→CGアニマティクス段階からファイナルの映像までを段階に見せている映像を再生

参考動画↓
オオタチが海から香港の街に向かっているシーン
→レンダー・パスを解説した映像を再生

参考動画↓
■ジプシーとレザーバックの対決シーンの解説
ジプシーがレザーバックに放り投げられるシーン
プリビズ映像→ILMが作ったシーン(グレー表示)→ファイナルの映像
投げ飛ばされたジプシーが体勢を変えて踏ん張るところでは、崩れるコンテナは剛体シミュレーション(リジッド・シミュレーション)を使っている。シミュレーションは、シミュレーション・チームが担当した。
レザーバックがジプシーに向かっていくアニメーションで、レザーバックの腕が地面に着くときに力が入るところの皮膚の振動をShapeで止めている。映像ではShapeを使っている領域が緑色に変わっていた。

参考動画↓
■ILM自社開発のWaveツール
映画の冒頭でジプシーが出動し、海の中を歩くシーンの波についての解説。
波の形状をコントロールできる自社ツールがある。

参考動画↓
時間がなくなったので、すべてのプレゼン映像は流せなかったようです。
最後のほうで、『ゼロ・グラビティ』について、触れていました。
Arnoldが使われているそうです。
非常によく出来た作品なので、ぜひ見て欲しいと言っていたと思います。
アルフォンソ・キュアロン監督がILMに来て講演した際に、今までSpecial Effectsと呼んでいたが、この映画では、Special Narrativeであると言っていたそうです。
そして、ILMのデニス・ミューレン氏の話に移り、ミューレン氏は映画で重要なものは「emotional」で、それぞれのショットが感情に訴えかけるかということを意識しなければならないと考えているそうです。
例として、『ジュラシック・パーク』の中で最初にT-REXが現れるシーンについて説明していました。
最初、アニメーターがT-REXが上を向いて吠えるようにアニメーションをつけていたのだが、それをミューレン氏が、顔を地面に近づけて吠えるように変更させた。そのほうが恐い印象を与えることができる。
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Cinefex 31号では、『パシフィック・リム』のVFXメイキングを扱いますので、お楽しみに!